30年を経て再び「映画モーリス」
昨年ジェームス・アイボリー監督の「君の名前で僕を呼んで」という同性愛を扱った映画が世界的にヒットし話題になり、それに伴ってその監督の30数年前に映画化された「モーリス」も4Kで再上映されました。
好きな映画は歳をとっても好きです。ただこの映画に関する感動は以前よりも大きいです。☺
ジェームス・アイボリー監督の作品はイギリスの文豪E,Mフォースター(1879~1970)の小説を映画化しており「ハワーズエンド」や「モーリス」「眺めのいい部屋」もそうです。
因みにアイボリー監督の作品でアンソニー・ホプキンズが演じた「日の名残り」はあのカズオ・イのシグロの小説です。
アイボリー監督の作品はどれも映像と音楽が美しく上品、更にキャスト選びが素晴らしく観てるとその世界に引き込まれ、モーリスをみた後は、しばしウットリでした。
当時この映画は日本でも大ヒットして英国美男俳優ブームを巻き起こしまた。
モーリスという同性愛に目覚めた青年の物語ですが、その小説がかかれた時代は同性愛は罪悪で、社会的抹殺に繋がるという時代。そして歴然と存在する階級制度のなかで対照的な人生を歩んでいく3人の青年の姿がえがかれています。
物語はモーリスという青年が、ケンブリッジ大学で知的で魅力的な上級性のクライブとの出会いにより、自分の男性しか愛せないという本質にきづきます。最初に誘ったのはクライブでした。しかしクライブは地方の地主階級出身でゆくゆくは政治家を目指す身。その当時の社会制度を考えると互いの関係は身の破滅を意味します。大学を卒業し社会に身を置くようになると、たとえプラトニックでも関係性を嫌悪するようになりそそくさと結婚してしまいます。突然の愛する友の変容に悩み苦しむモーリス。
モーリスは中産階級の出身で、何不自由なく育てられ、育ちのいいお坊ちゃまな風情ですが、あまり階級にはとらわれていません。同性愛者である(本質)を捨てきれず悩むモーリス。「これが病気なら治してほしい」と催眠療法にもすがります。
そんな時彼の前にクライブの屋敷の猟場番のスカダーという青年現れます。かねてからモーリスにあこがれていたアレク・スカダー。
互いの身分に悩み苦しみながら二人は結ばれます。
(これだけ読むとボーイズラブの鉄板ですね💦)
最後モーリスはクライブに夜の闇の中で別れを告げ、スカダーとの互いの愛の成就のためにすべてを捨てて二人で姿を消します・・・・
クライブは「グロテクス」と言い放ったもののモーリスが去った後、窓を閉めながら、互いに幸福だったころのモーリスの姿をケンブリッジの五月の陽光とともに闇のなかよみがえらせます。
そこには3人3人様の、人生の中で捨てたもの、捨てなかったもの、失ったもの、得たものが浮かび上がってきます。
フォースターは小説のあとがきでどうしても「ハッピーエンド」にしたかった…と書いています。
社会的にあり得ない時代の物語だからこそ、本質を貫いたモーリスの愛を成就させたかったという、同性愛者であるフォースター自身の願いの物語だったともいえます。
この小説が書かれたのは1914年でしたが出版されたのは彼の死後1971年10月でした。まあ生きている間はだせなかったとうことでしょうね。彼自身も公にされないパートナーがいました。
そしてアイボリー監督自身も同性愛者です。モーリスが映画化されたときは1987年エイズが世間で問題になっている時代でもありました。
映画も好きですが小説も新しい翻訳がでていたので、また読んでいます。
その中で心に響いたところがあります。主人公のモーリスの思いです。身分下のアレック・スカダーと衝動的に関係をもった後に「アレク、友達の夢を見たことはないかい?互いに助け合う本物の友の夢さ・・一生変わらない友人だよ。そうゆうことは夢でしかおこらないのかな。」
モーリスはただひたむきにパートナーと愛を渇望していたのです。互いの人生を愛し支えあう人生を。
いまだったらゲイの幸せなカップルとしてモーリスとクライブは破局にならなかったかもしれません。
それでもLGBTに対しては今でさえ多少の偏見が残っていますが、ルクセンブルクでは首相がゲイであることを公表しました。
作者や監督の思いが沢山詰まった作品です。
なぜいまモーリスなのか?私にとっては「本質」がキーワードです。
モーリスのテーマはジェンダー論であり、階級制度だったりもありますが、根底に流れているは悩み苦しみながらも愛を求める姿、自分自身を偽らずに貫く姿です。(フォスターは小説の中で勇気とも言っています。)
「真実をありのままに生きること」の難しい時代を経て、やっと多様性の今ですね。
欲望と本質は密接です。欲望は人によって違います。権力だったり、名声だったり、お金だったり、美しさだったり。
自分の欲望を通して本質がみえてくるのかもしれません。
物語の前半はクライブ役のヒューグラントのイケメンぶりに目を見張りますが、後半にかけては憂いを帯びていくモーリス役の美しい金髪のジェームス・ウィルビーにどんどん魅了されます。
ジェームス・ウィルビー、ヒュー・グラント、ルパート・グレーブス、3人の俳優が素晴らしく今の時代にも遜色なくLGBT映画としても傑作だとおもいます。